2013年12月2日月曜日

行政書士の正当業務行為とは

 

重要な論点の保留

 先の記事でも紹介した広島高裁判決は、最高裁に上告されるようですが、一つ大事な論点を保留しています。

 それは、弁護士法72条の「ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と、行政書士法1条の2の「他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。」のどちらが優越するか。という問題です。

 広島高裁は、「事件性があるから、弁護士法違反」という形にこだわっており、その論調を乱す恐れのあるこの判断を避けてしまいましたが、行政書士がどの程度、依頼に関われるかという問題の帰趨は、ここにこそ在るといえるでしょう。

 

広島高裁の主張

「権利義務に関し争いがあり,若しくは権利義務に関し疑義があり,又は新たな権利義務関係を発生する案件(東京高裁等)」は法律事件とである判例をもとに、先に紹介した広島高裁の行政書士に対する判決は出されています。

 まあ有名な判決なので、その内容に関しては、あまり争われていないようですが、問題が一つあります。

 広島高裁は、権利義務に争いや疑義がなくても、内容証明を送って「新たな権利義務を発生」させているから法律事件、と言っているのです。

 広島高裁は、本件を無理やりにでも先例となる判例の型に押しこめたいという意識があって、この民法の基礎からも突っ込みどころの多い判示をしてしまったのだと推測されますが、これを読んで疑問に思ったことがあります。

 

権利義務・事実証明に関する書類とは

 行政書士の業務である権利義務に関する文書と事実証明に関する文書については、次のような判例があるのです。

“権利義務に関する文書とは、権利義務の発生・存続・変更・消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする文書である”(大判昭和8.5.23)

“「事実証明に関する文書」とは、実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書と解する”(大判明治44.10.13)

 ここでは、権利義務を発生させる文書や、交渉を有する事項を証明する文書は行政書士の業務ということになります。古い判例ですが、これらの判例が効力を失ったという話は聞きません。

 権利義務を発生させる文書が、行政書士法に規定する権利義務に関する書類だとすれば、広島高裁の「権利義務を発生させたから違法」という理屈は根底から覆されます。

 

但書の無限ループ

 ここに広島高裁で保留された論点を明確にしておく必要があります。

 行政書士法に言う他の法律の制限が、弁護士法72条を指すとすれば、権利を発生させる文書を代書することは違法となります。しかし、権利義務を発生させる文書の作成は、行政書士の業務という矛盾が生じます。

 一方、弁護士法に言う「他の法律に別段の定め」が行政書士法を指す場合は、事件性の有無にかかわらず・・は言い過ぎかもしれませんが、事件性が悪化しない範囲であれば、「文書を作成する事」に関しては、72条違反に対して違法性阻却事由(喧嘩の正当防衛みたいなもの)が成立し、正当業務といえることになります。

 

弁護士法では法律事務を包括的に制限している

 弁護士法は、一般的包括的に無資格者が法律事務を業として扱うことを禁止し、弁護士資格者と「他の法律に別段の定め」がある場合のみ、それを許可しています。また、他の士業を規定する法律は、一般的包括的に禁止された法律事務の一部のみを許可するものです。

 弁護士法の規定は包括的禁止であるため、この弁護士法72条を、他の士業における「他の法律での制限」に含めてしまうと、「一部は許可する」としながら「法律事務は全部ダメ」という矛盾が生じます。これは司法が、立法府の制定した法律を有名無実にすることにつながります。

 

「争い・疑義」と、「新たな発生」による事件性の違い

 もう一度、広島高裁の判示を振り返ってみたい。「権利義務に争いや疑義がなくても、内容証明を送って『新たな権利義務を発生』させているから法律事件。」

 しかし、“権利義務の発生・存続・変更・消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする文書”の作成が行政書士の業務とすれば、争いや疑義のある法律事件と、新たな権利義務を発生させる範囲の法律事件とは、意味合いが違ってきます。

 更に、司法書士に対して出された高松高裁判決と、広島高裁での判示との間には前提的な相違があります。高松高裁では、交渉などで事件性のある法律関係に介入したから違法性を阻却する事由がなくなり、弁護士法違反と判決が下りました。しかし、広島高裁で争われた事件では、争いや疑義があっての事件性があるとは言い切れない内容になっているのです。

 また、その行政書士の行為は、行政書士法で認められた権利義務に関する文書の作成を、同法第1条の3で認められた代理人として行った範囲に留まります。

 

問題は、裁判所が判断を逃げないか

 立法の意義をないがしろにする判断が下されるのか、大判昭和8.5.23の判例が覆されるのか、それとも行政書士の業務範囲が条文に矛盾なく定義されるのか。

 最高裁では、この論点に判断がくだされるでしょうか。もし、最高裁までも判断保留とされれば、立法や判例に矛盾を抱えたまま、弁護士と行政書士の所謂「業際問題」には決着がつかず、高額な弁護士費用を捻出できない人たちに大きな課題を残すことになるでしょう。

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